[BX68MT2]X68000マウス・トラックボール用マウスボールを本気で作り、量産・販売するまでの記録

2022/05/31(火) - 18:48 | bisoh
以前、Sugruと言うシリコンゴム接着剤を使用して手作りのX68000マウス・トラックボール(以下MT)用マウスボールを手作りした話を書いた。しかし、これはあくまでも自分用に作った物で、手間がかかる上、少しでもサイズを小さく作るとトラックボールモードにした時に指で押すと落ちてしまうと言う難点があった。

Sugruで作ったマウスボールと、トラックボールマウス本体 (c)Hosoda Bisoh

そうして時は流れ2021年の9月頃…このマウスボールの量産法確立に着手することとなった。当時の自作品をTwitterのフォロワーさんに差し上げて喜んで頂いたのがキッカケ。10月にはこれまた先人たるフォロワーさん達の後押しもあり、光造形3Dプリンターを入手、より良い制作環境を整えた。

当初は「Sugruや別の硬質ゴムで鋼球をコーティングした上で精度を上げる」と言う、従来通りの方法での完成を模索しており、そのための鋼球センタリング用治具の改良に勤しんでいた。

光造形方式の3Dプリンター Anycubic「Photon Mono」 (c)Hosoda Bisoh

最初は無知ゆえの失敗続き (c)Hosoda Bisoh
開発当初は、治具を用いて鋼球の位置決めとシリコンゴムコートを行う方向だった (c)Hosoda Bisoh


しかし、治具をいくつも出し、Sugruの貼り付きや溝がなくなるようにと頑張ってみたものの、成形時の手間の省略は出来ないし、精度も大して上がらない。どうしても指や道具で球面を均す必要があり、そこで狂いが生じてしまうのだ。その上、前述の通り硬化後のSugruの硬度が足りない(弾力がある)ので、MTのモード切替用ストッパーがうまく効かず、トラックボールモードにしてもボールを押すと底側に落ちてしまうと言う欠点もあった。

発想の転換、DDR-725、量産体制の確立

こんな風な試行錯誤の2ヶ月を過ごし、年も越した1月5日、転機が訪れる。直径23mmの半球シェルを直接3Dプリンターで出力する、と言う事を思いつく。これが、上手くいった。

治具によるマウスボール造形の最終版 (c)Hosoda Bisoh
この黄色い治具をグルグル回すことで球体が成形される仕組み。成形後に道具や手で触れる=結局歪むため不採用 (c)Hosoda Bisoh


オリジナル球と同等の物を求めるあまり、硬質ゴムに拘り続けてしまい、よもやレジンがそのまま使えるとは思いもしなかったのだ。自分が使ってきたレジンに今回まさに求めているようなグリップ感と弾力がある事に気付いたのがはじまり。

翌1月6日に完成したそれは、まだ荒削りなものの、頭の中で求めていたクオリティーが実現されていた。

半球シェルを3Dプリンターで出力してみた (c)Hosoda Bisoh
レジンがすでに硬化しているため、鋼球を内部に収めるだけで良くなった (c)Hosoda Bisoh


レジン製のいい感じの球体が出来上がった (c)Hosoda Bisoh
文句なしのマウス・トラックボール用のマウスボールが完成した (c)Hosoda Bisoh


その後もゴムライクなフレキシブルレジンや、より丈夫なABSライクレジンを混ぜてみたりと素材の模索をしたものの、元のレジンを超えるクオリティーは出ず。仕上げで精度を上げさえすれば使い物になる、と言う結論に。そうしてMT用マウスボールの完成と量産の目処を宣言した1月11日のツイートには、250を超えるいいねを頂いた。

以下、日付毎に状況を記してみた。

1月13日
Twitterで24時間の期限を設けたアンケートを取る。色を定めずに取った後、グレーを別に。この時点では、1個2000〜2500円を想定。

1月14日
黒103:灰25の票が集まる。これよりやや多めの計150個、黒115:灰35を最終目標個数に設定した。

1月16日
頒布に向けて、梱包についても検討を開始。購入者の負担を軽減したく、梱包材含め、30mm(ネコポスやレターパックの厚み上限)を超えないように、と考えた。

1月17日
半球の合わせ目(パーティングライン)を消すための実験。一度溝掘りして同じレジンをパテ代わりに盛り、硬化後に削る。頒布初回分はこの手法を採用したが、厚くなる分切削に手間がかかるのと、効果が薄かったため後に止めた。

1月19日
球体整形用の治具とレジン盛付用の台座を出力。

新たに作成された治具と、レジン製マウスボール&シェル (c)Hosoda Bisoh
サポート材の除去がなかなか大変… (c)Hosoda Bisoh


ハンディルーターを購入して半球内部の切削の効率化を図った (c)Hosoda Bisoh
マウスボール内部に収まるのは19mmの鋼球 (c)Hosoda Bisoh


接着剤を流し込んで、クランプで圧着。接着剤の量は何度か調整して、2回目の出荷以降ははみ出す量を最小限に抑えられた (c)Hosoda Bisoh
マウスボールの形をより真球に近づけるべく作成した治具。最終的に半球型のダイヤモンドビットが効率を爆上げしたため、不採用となった (c)Hosoda Bisoh


パーティングラインなどの溝にレジンを足して硬化させる(手間が増えただけだったので、後にこの工程は廃止) (c)Hosoda Bisoh
こんな感じにレジンを盛ったのだけど、効果が薄く、後に接着面をしっかり整えることで目立たなくする方向に (c)Hosoda Bisoh


1月21日〜25日
第1回頒布に向け、量産開始するも、MTに入れていくつか転がしてみると引っかかりが起きるため、中断。MT内部のボールと接するシャフトの軸受ベアリングの交換を試みることに。グリップの問題かも?と思い、再度フレキシブルレジンの使用も検討。ベアリングは寸法の計測後、「DDR-725」と言う製品が適合する事がわかったので、それを10個ほど発注。

1月26〜27日
DDR-725が届いたので、シャフトのベアリング4個を交換して転がり試験。交換前よりはややスムーズに転がるようになった。しかしまだ引っかかる。

この時点の模様をTwitterに上げると、@z_aplha2さんが、モード切替部の樹脂ホイールもボールベアリングに交換してみては?と言う旨のアドバイスを下さり、樹脂ホイールの寸法を測ってみた。すると、厚みこそ違うももの、他4つと同様にDDR-725が適合する事が判明。

マウス・トラックボール内部にある、ストッパー兼用の樹脂製ホイール (c)Hosoda Bisoh
DDR-725ベアリングに交換することで、より滑らかなボールの動きが実現 (c)Hosoda Bisoh


DDR-725交換後のマウスボールの動きのヌルヌル感は感動ものだった (c)Hosoda Bisoh

そんなわけで、これも交換。そして、これの交換が一番効果があった。我が家にあるもう1つのマウス・トラックボールは、これ1箇所のみ交換しただけで、恐ろしくスムーズにボールが転がった。あまりに感動したので、Twitterでひとまずベアリング交換をお勧めしてみたり。



レジン半球と鋼球の組み合わせに、DDR-725。おおよそここまでで、製品の底の部分は固まったと言っていい。ここからはロゴや説明書のデザイン、パッケージの検討などを、マウスボール本体の生産と並行して行っていった。製品名「BX68MT2」もこの頃に決めた。「X68000マウス・トラックボール用マウスボールの2代目」的な意味。

製品名が決まり、ラベルと説明書をデザインして発注した (c)Hosoda Bisoh
BX68MT2の説明書。折る作業は手作業だけど、発注時に折りしろ付きにしたので、綺麗に素早く折れた (c)Hosoda Bisoh


ラベルを貼り、袋に説明書を入れ、ボールの出来上がりを待つ (c)Hosoda Bisoh
オマケのDDR-725も小袋に小分け (c)Hosoda Bisoh


ついに販売出来るレベルの製品として完成した[BX68MT2]X68000トラックボール用マウスボール (c)Hosoda Bisoh

そして3月半ば、凹半球型のダイヤモンドビットなるものをネットで見つける。内径23mmと言うのもあり、これの入手が仕上がり精度向上に大きく貢献する事になる。生産作業を溝埋めまでで止め、より良い整形方法が見つかるまでマウスボールの切削研磨を我慢していたので、本当に嬉しかった。3月21日から、いよいよマウスボールが製品の姿になりだした。

半球型のダイヤモンドビットなるものを見つけ、最初の販売向け量産を前に、精度と効率が大幅アップした (c)Hosoda Bisoh

形を整えられたマウスボール (c)Hosoda Bisoh
サンドペーパーで粗磨きされたマウスボール (c)Hosoda Bisoh


左:最終仕上げ前→右:完成 (c)Hosoda Bisoh
最後に水で洗浄してレジン粉も落とす (c)Hosoda Bisoh


綺麗になった黒マウスボール(とは言えやはりパーティングラインや細かい研磨傷などはある) (c)Hosoda Bisoh
グレーのマウスボールは、色的にパーティングラインなどが目立ちにくくて良い (c)Hosoda Bisoh


転がりテストに使ったマウス・トラックボールたち。仕上げ時に1つずつテストしており、少しでも動きが気になった物は出荷していない (c)Hosoda Bisoh

そして販売へ

このタイミングで、BEEPさんへの販売委託も決める。当初はBoothの方が手数料が少なく魅力的に見えたのだけど、一度に扱う数が多いため、発送手配を自分が個別に行うのは無理があるなあ……と思っていたところ、あちらからお声がけ頂き、決断した。

本業の忙しさも重なり、この選択は大正解だった。BEEPさんではすでに3回の出荷分全数の販売を終えているが、毎回手数料分以上の仕事をして頂いている感がある。ご担当いただいた方の対応も丁寧で、本当に安心感があった。直接お伝えするようにもしているけれど、この場を借りて公にも感謝の気持ちをお伝えしたい。ありがとうございました。

パッケージングが完了したBX68MT2 (c)Hosoda Bisoh

出荷前に記念撮影。まずはブラック (c)Hosoda Bisoh
グレーも写真に収めた (c)Hosoda Bisoh


さて、あれやこれやの準備が整った第1回分。3月27日にはパッケージへの封入〜梱包まで終え、BEEPさんとご協力頂いた方々へ発送。インターネット上ではBEEPオンラインショップにて、3月29日19時(火)より「BX68MT2」の第1回販売開始となった。価格は1個2700円(税込)、ブラック25個、グレー15個をネットメイン、店頭少量で販売いただいた。なお、各店への振り分け数はご担当者様にお任せしているため、把握していない。

こういった経緯で量産・頒布に漕ぎ着けたBX68MT2、Twitterで「絶対余る」と書いたのは本音だったのだけれど、果たして初回は5分足らずで完売……ありがたいやら全然足りず申し訳ないやら、初めて味わう複雑な想いがこみ上げてきた。

これを受け、「次回は1ヶ月後、4月29日のレトロエクスプレス6号で」と考えていたのを改め、その間にもう一度BEEPさん向けに同量作って送る事に。

仕事も押せ押せの中、どうにか予定分の生産を終えて発送、第2回販売は4月19日(火)19:00にスタート。が、これも30分少々で完売……。まだまだ作らねば…と言う想いを抱きつつ、レトロエクスプレスに向けて再び量産を始めるのであった。

おしまい