Sugruと鋼球でX68000マウス・トラックボール用のボールを自作してみたら、なかなか調子良かった話

2020/08/31(月) - 21:31 | bisoh
IT太古の時代、市場に溢れていたボール式マウスは、今やLEDセンサー式に席巻され、見る影もなくなってしまった。それでも一般的なサイズのマウスボールであれば、ジャンク屋に行けば見つけられる事もある。しかし、X68000のマウス・トラックボールはボール直径が約23mmと、一般的なボールサイズより大きく、完全なる代替品が全く見つからなくなってしまった。

そして自分が手に入れたこいつは、ボール表面がヒビ割れ、一部は剥がれ落ち、中の鉄球も露出しており使い物にならない。マウス本体は完全に直したのにだ。「もう自分で作るしかない!」血迷った私はマウスボールの制作に向け、素材を探し始めた。

グレーのマウス・トラックボールに付いていたボールの直径は23mm (c)Hosoda Bisoh
22.9mmを示した黒いマウスボール (c)Hosoda Bisoh


そもそも、いまだかつて個人がマウスボール自体を手作りしたなんて事があるのだろうか。軽く検索した限り、そんなアホは出てこなかった。だって、X68000ですら優秀にして献身的なる先達の制作によるUSB変換アダプターが存在し、それさえ使えば、最新のLEDセンサー式マウスが使えるのだ。古ぼけて反応がダルなボール式マウスなんて無用の長物だ。

しかし、このマウス・トラックボールは私にとって特別だ。新たな周辺機器のためのお金を弄することなく、マーブルマッドネスをプレイさせてくれたアイテム。お金がなかった学生時代、こんな些細な事でもいかにありがたい事であったか。長き空白期間を経てもなお「USBマウス使えばいいもんねー」などと言って捨てられはしない。「うちに来た以上、何が何でも使えるようにしてあげるんだからね!」私は誓った。

素材の選定

……とまあくだらない前置きはここまでにして、いくつか今回の制作に適合しそうな素材を探し当て、マウス・トラックボール用マウスボールの制作を開始した次第です。揃えた素材は以下の通り。

  • Uxcell製ボールベアリング用鋼球20mm
  • 23mmの半球型があるシリコンモールド
  • Sugru(シリコン粘土っぽい接着剤)

今回の作業に向けて揃えた素材。23mm半球形型があるシリコンモールド2つ、20mmの鋼球、シリコン粘土のSugru (c)Hosoda Bisoh

直径20mmの鋼球をSugruで覆い、23mm径の球体に仕上げる、と言うのが今回のおおまかな作業行程。

中でもキモは「Sugru(スグルー)」。江川卓さんか彼由来のキン肉マンを思い出す名前のこれは、始めから粘性が高い上、硬化すると硬質ゴムのようになる。今回はまず鋼球を覆う素材の粘性の高さが重要と考えており、これが液体だと中に入れる鋼球が重力で沈み、ボールの重心が偏ってしまう。作業開始時点からこの鋼球の重量を支えきるだけの粘性が必要と判断し、粘土状で加工も容易そうなSugruを選んだ。

購入したSugruは白、黒、グレーがセットになった商品。1900円くらい。グレーは2パック入り。作業可能目安は30分、完全硬化まで24時間とのこと。

ボールの中に入れる20mmの鋼球はAmazonで見つけたUxcell社と言う中国メーカーのもの。1個単位で売ってくれているのがありがたい。1個600円少々だったので、失敗する事も予測して2個購入。

シリコンモールドは、楽天市場で見つけたアクセサリーの素材屋さんから2つ購入。上下に合わせこんで原型となる球体を作るため。1個600円くらい。

それでは実際の作業行程へ。

マウスボールの制作 1日目

まずは20mmの鋼球へ均等にSugruを貼り付けていった。この時は「グレーだけど、ちょっと暗めだな…」と思っていたけれど、硬化後の色を見たら結構マウス・トラックボールの色と合う明るさでホッとした。

今回使うのはグレーのSugru(1パックで足りた) (c)Hosoda Bisoh
Sugruをのパックを開いて作業に入る。一度開封すると硬化が始まるので、使い切らないといけない (c)Hosoda Bisoh


Sugruの貼り付けが終わったら、23mm半球型のシリコンモールドへこれを突っ込み、上下から挟みこんだ。そして型に沿うように空気と余分な粘土を2つのシリコンモールドの間へと押し出す。

次にシリコンモールドを外し、はみ出した粘土をアートナイフでカットして取り除いた。これを数度繰り返し、おおよそのサイズ出しと初期成形が完了。続いて両手の平の腹で力を入れずにボールを転がして、出来るだけ綺麗な球形に近づけていく。5分以上やっていた気がする(疲れた…)。

鋼球にSugruを均等に貼り付けていく (c)Hosoda Bisoh
手の平でコロコロしておおよそ球形に整える (c)Hosoda Bisoh


23mmの半球形型にボールを入れる (c)Hosoda Bisoh
上からもシリコンモールドを被せて、余分な空気とSugruを合わせ目のところへ押し出していく (c)Hosoda Bisoh


はみ出したSugruをアートナイフでカットし、取り除く (c)Hosoda Bisoh
何度か同じ作業を繰り返した (c)Hosoda Bisoh


そうして表面が多少硬化してきたら、シリコンモールドの一回り大きな型枠の半球に入れて翌日まで放置した。こうなるまでコロコロを頑張ったのは、Sugruの接着力が強いため、それを弱める意味があった。

また、大きめの型枠に入れたのは、23mmピッタリの型だと、半球の境目のラインがボールに強く付いてしまいそうだったため。

一回り大きい半球形の型に入れて放置し、硬化を待つ (c)Hosoda Bisoh

マウスボールの制作 2日目

翌日深夜、24時間近くが経過したあたりでマウスボールの形とサイズを綺麗に整える作業へと入った。はい、全然24時間経ってません。23時間目くらいに手でボールを触って「もうよくね?」と思って作業始めました。

結果としてほぼ硬化しており、加工に問題なかったから良いものの、こう我慢忍耐がないといつか問題になりそうで怖い。良い子のおじさんおばさん達はちゃんと規定の時間まで待ちましょう。

しかして硬化したそれは、なんだか元のマウスボールより大きく見えた。

新しいボールを測ってみたら23.9mm。ほげぇ……1mm近く違う。まさかシリコンモールドがそこまで伸びるなどと思っておらず、0.2〜0.3mmくらいの広がり具合で収まれば、削って形を整えるにも丁度良いサイズだと考えていた。

だがなってしまったものは仕方がない。小さすぎるよりもマシだ。ここから地獄のヤスリがけ2時間コースがスタートした。終わった後は肩凝りがひどく、マッサージ2時間コースを受けたくなった。

硬化した新マウスボール (c)Hosoda Bisoh
どうも元のボールより大きく見えるような… (c)Hosoda Bisoh


測ってみたら23.9mmもあった… (c)Hosoda Bisoh

以降はひたすら120番や240番の粗目の紙やすりで、削っては合わせたり測ったりの繰り返し。当初のサイズではマウス・トラックボールの中に入れることすらままならなかったが、最後は両手の指が疲労困憊の中、直径23.1mmまで削りきり、無事ニューボールが余裕を持って本体内部へと収まった。

仕上げには400番、600番、800番の紙やすりを順番に使い、転がり抵抗やグリップ感を確認しながら進めた。最終的なボール直径は22.9mm。このわずか0.1mmの違いもさらなる転がしやすさに繋がっており、結果的に良かった。

23.9mmでは、全然マウス・トラックボール本体に収まらない (c)Hosoda Bisoh
120番や240番の紙やすりで直径23mmになるまで削っていく (c)Hosoda Bisoh


削りに削って23.1mmまで来た (c)Hosoda Bisoh
400番、600番の紙やすりでボール表面の仕上げ (c)Hosoda Bisoh


最終的に800番の紙やすりで整えると、転がり抵抗や指先のグリップのバランスが程よくなった (c)Hosoda Bisoh
完成したマウスボールを洗浄 (c)Hosoda Bisoh


見た目はご覧の通り。細かい気泡跡は見えるものの、誤差の少ない球体に仕上がった。使ってみた感触もなかなか良く、殊、トラックボールモードで使う時の指先のグリップ感はオリジナルを超えたかもしれない。削りに削った甲斐はあったと思う。さあ、これでマーブルマッドネスが出来る!もううちにないけど!

作業上の誤算はやはりシリコンモールドの拡張っぷり。もう少し硬く広がりにくい半球形の型さえあれば、だいぶ早く完成までこぎつけられたはず。それと、自分がギュウギュウとモールド内に素材を詰めすぎたのもあるかも。次回は(やるのか?)、別のより良い型を探し直すか、シリコンモールドへのSugruの詰め方を工夫するか、どちらかでチャレンジしてみたい。

仕上がったマウスボールと、マウス・トラックボール本体、今回の素材たち (c)Hosoda Bisoh

仕上がり寸法は直径22.9mm (c)Hosoda Bisoh
硬化し、研磨されたマウスボールは、色味と質感も絶妙に合ってる感(※個人の感想です) (c)Hosoda Bisoh


トラックボールモードでのボールのグリップ感がかなり良い (c)Hosoda Bisoh